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「そんだけ必死に勧誘して、大根役者だったらどうすんだ?」
「うっ……それは、その時考える」
下校時刻はどの学校も似たもので、辿り着いた駅のホームは他校の学生も多い。
その中のいくつかの女生徒の視線はこのめの隣に注がれている訳だが、中学時のように待ち伏せをされていないだけ、まだマシだろう。
秘めやかというには少々大きな黄色い声をただの日常として、吹夜とこのめは電車に乗り込んだ。
「で? 今日は本人と話せたのか?」
「……そこだよね」
電車に揺られながら、このめは窓越しに遠くの青空へと視線を飛ばす。
紅咲と同じクラスに、定霜迅という生徒がいる。
筋肉質な体格に、周囲から頭一個出る長身。
着崩した制服。重力に逆らう短い黒髪は爽やかというより攻撃的で、なぜか彼は入学時から番犬のように、紅咲に近づく生徒を威嚇していた。
このめも例外なく牙を向かれており、結果、まだ一度も紅咲自身とは話せないままでいる。
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