壽寫眞館

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その奇妙な店は、ビル群の中に埋もれるようにひっそりと建っていた。 今や目にすることが珍しい旧字体で「壽寫眞館」と掲げられた看板は風雨にさらされて辛うじて読める程度。 その昔は鮮やかな赤茶色だったはずの煉瓦も、すっかりすすけて、かつての美しい面影は跡形もなく、重ねられた時の深さだけを物語っている。 再開発の波に取り残され、近代的な建物に囲まれた古ぼけた店舗は異質どころか存在感さえなく、とっくに廃業していると思われてもおかしくない。 何しろ、たいていの写真館が花嫁や七五三等の記念写真を表に飾るであろうに、それすらしていないのだから。 それなのに、ある一部の客には有名らしい。 「ええと、寿と読めますね。ここが、その写真館のようですよ。」 客とおぼしき、一組の老夫婦らしい男女の姿があった。
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