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その言葉を、岡山は片時も忘れなかった。至極のメニューを敗北させてやる……そのため、岡山はありとあらゆる手段を用いて、至極のメニューに勝てるような料理を探した。
結果、岡山が辿り着いた答えは一つであった。至極のメニュー側のドンであり、グルメ界最強の怪物と言われている西原勇一郎に勝てない限り、至極のメニューには勝てない。
西原に勝てる料理人を見つけなくては、この勝負に勝つことは不可能だ。
以来、岡山は寝る間も惜しんで、自身の眼鏡にかなう料理人を探した。東都新聞社の情報網を駆使し、あちこちに足を運び、時には裏社会の人間との接触も辞さなかった。
その結果、ようやく一人の料理人の名前が浮かび上がってきた。
範田刀我……彼は、西原勇一郎の実の息子である。母親の死をめぐる確執から二十年以上前に絶縁しており、今は田舎町で一軒の小料理屋を営んでいるというのだ。
範田は幼い頃より、西原に料理を叩き込まれてきた。その腕前は、名ばかりの高級レストランのシェフなど比較にならないだろう。
さらに、父親譲りの鋭敏な味覚も持っている。この味覚だけは天性のものだ。幼い頃より、高級な料理を食べ続けることで磨かれてきた舌。こればかりは、そう簡単に身に付くものではない。
西原に勝つには、範田の協力が必要……岡山はそう考えた。そこで栗村を連れて、ここ白土市にやって来たのである。
白土市は、周囲を山に囲まれた場所だ。その白土市の、さらに外れに位置する三森村……そこに、古い料理屋がある。一見すると、古い民家と間違えてしまいそうな造りである。
その店を営んでいるのが、範田刀我であった。
「あんたらか、西原勇一郎と勝負しようってバカは」
店を訪れた岡山と栗村に対し、範田は険しい表情と厳しい言葉で出迎えた。贅肉を削ぎ落とした顔と筋肉質の肉体、そして異様に鋭い目つき。料理人というよりは、武術家のような風貌であった。
「そうです。至極のメニューに勝つ、すなわち西原に勝つということです。西原に勝つには、あなたの協力がなければ不可能……私はそう判断し、ここにやって来ました」
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