極上のメニュー

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 しかし、西原勇一郎が会場に入った途端、和やかな空気は一変した。七十近いとは思えないほどの筋肉隆々とした体格。昔の剣豪のような鋭い眼光。顔つきは引き締まっており、他の審査員とは一線を画す迫力だ。黒いTシャツとズボンというラフな服装のまま、悠然と歩いて来た。  だが突然、西原の歩みはピタリと止まる。彼の視線の先には、岡山史朗と範田刀我がいた。二人とも、異様にやつれた表情をしている。しかし、眼光の鋭さは西原にも負けていない。 「貴様……何しに来た」  範田を睨みつけながら、ドスの利いた声で威嚇する西原。彼には分かっているのだ。今回、極上のメニュー側には範田が付いているということは……今までとは、全く違う勝負になる。この時点から、既に闘いは始まっているのだ。  一方、範田は平然とした様子で顔を上げた。真っ直ぐに西原を見つめる。 「親父……やっとあんたに敗北を教えられるぜ」  そう言って、ニヤリと笑う範田。すると、西原は呆れたような表情になった。 「ついにおかしくなったようだな。敗北だと? 貴様の作る料理など、この俺から見れば子供の作る泥団子と同レベルだ。恥をかかないうちに、さっさと山に帰れ」  そう言って、西原は再び歩き出した。  しかし―― 「あんたは舌の方は相変わらずだが、鼻の方はすっかり衰えたようだな。昔のあんたなら、今の時点で俺の料理の匂いを嗅ぎ当てていたはずだ」 「なんだと?」  西原の顔に、訝しげな表情が浮かぶ。しかし、範田は不敵な表情で言葉を続けた。 「まあ、見てな。あんたは今日、敗北する」  やがて、極上のメニュー側の料理が運ばれてきたが……。  それは、何のへんてつもない一口サイズのステーキであった。しかも肉を切って焼いただけ、という風情だ。何の肉かは不明だが、あまりにも大雑把なものである。 「何だこれは?」 「こんなものを出すとは、極上のメニューはどうかしてるぞ!」 「連敗で、ついに自棄になったか?」  ざわざわする審査員とゲストたち。だが、西原の反応は違っていた。そのステーキを一目見た瞬間、彼の態度は一変する。
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