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休日だというのに、俺は九時のアラームで起きた。
今日は彼女と初めてのデートなんだ。
ベッドから素早く身を起こすと、昨日のうちにハンガーに引っかけておいた、今日の衣装に着替えた。白の丸首シャツに、黒のジャケット、水色のハーフパンツだ。
パンツの尻ポケットに紺色の長財布を突っ込むと、軽快な足取りで階段を降りる。
洗面所に入ると、蛇口を捻った。勢いよく流れ出る水を両手で掬い、一回、二回、三回と顔に水をかけて洗う。
壁に備え付けられた顔拭き用のタオルで、顔を流れ落ちる水気を拭い取る。
サッパリとしたところで、化粧水と乳液を顔に塗りたくった。塗りすぎるくらいの方が丁度いい。
そして、今度は両手を湿らせて、寝ぐせをリセットするべく洗うように頭を掻く。掻く。掻く。
ヘアタオルで軽く髪から水気を取ると、水分を飛ばす程度にドライヤーで乾かす。ある程度、頭から離した位置から熱風を当てる。この時に、完成形をイメージしてベースとなる形にしておくとなお良い。
洗面台の上に置かれた数ある中から、ムースとワックス、そしてヘアワックスを選び取った。
まずは右の人差し指でワックスを掬い取る。それを左の掌に載せると、ムースをピンポン玉くらいの量を出して、二つを両掌に馴染ませる。毛先だけにワックス・ムースをつけるように動かす。一分ほどそれをこなすと、続いて全ての指の腹を使って、頭皮を揉むようにして、毛を立たせる。そして全体を掴んで付着させると、前髪に軽くつける。前髪にはワックスをつけすぎてはならない。ここで失敗しては全てが水の泡だ。最後に全体の形を整えたら、スプレーで固める。
ワックス、ムース、スプレーは、できるだけ固くならないものを選ぶ。柔らかそうな見た目にすることが重要だ。ヘアジェルで固めるなんて気持ち悪い。
俺は目の前の鏡を、今一度凝視した。
鏡に映る二枚目は、白い歯をチラリと覗かせて微笑みかけてくる。
よし、今日もイケメンだ。
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