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無事アルタ前で彼女を見つけると、さっそく映画館に向かう。
いまどき珍しいとすら思える、黒髪のセミロングの彼女は、俺を一目見ると微笑みかけてきた。つられて俺も、手をあげて答えるついでに笑みを投げかけた。
目的の映画館は、一階がガラス張りで開放感を演出しているふうだが、両隣も、その先にも灰色の面白みがまるでないビルが林立している。むしろ息苦しささえ感じた。家の近所にある映画館の方がよっぽど開放的だ。
チケットを購入してスマートホンで時間を確認すると、まだ上映開始まで時間があるようだった。
「ちょっとトイレ」
「いってらっしゃい」
俺はジャケットの左ポケットからハンカチを取り出して、トイレに向かった。洗った後の、水でビチョビチョになった手をつっこむのが嫌だからだ。
用を足して戻ってくると、彼女の様子がおかしかった。
さきほどまではあんなに魅力的な笑顔を浮かべていたのに、今はどうだ。まるで化けて出てきた幽霊のような、恨めしげな表情に変わっているではないか。手に何やら名刺くらいの大きさの紙切れを三枚持っている。
「ねえ、どういうことなの?」
彼女は開口一番言い放った。かなりの怒気を孕んでいることはあきらかで、けれども俺には何が起きたのか分からなくて、曖昧な返事をするしかなかった。
「えっと、遅くなってごめん? どうしたの」
「どうしたのじゃないよ。何よこれ」
そういって彼女は、手に握っていた正体不明の名刺らしき紙、その“表”を俺に見えるようにして突き出した。
それはいわゆるポラロイド写真というやつだった。
三枚の写真それぞれに、まったく見知らぬ浴衣を着ている少女が一人ずつ映っている。座っていたり、前に両手を揃えて立っていたり、見返りをしていたりするが、三人ともまっすぐにこちらを見ている。
不可解なのは、背景は祭りの露店だとか、神輿だとか花火とかいう、浴衣から連想されるシーンではないということだった。どういうわけだか、彼女らは全員、白い壁とグレーの床がある屋内にいて、その時に撮影されたものらしいということだ。
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