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それから私は、空洞に詰め物をして過ごすようになった。
クモは、実に良い仕事をしてくれた。まさに私の『右腕』だった。書ける。思い通りに書ける。作家になったばかりの頃に戻ったかのようだった。以前とは少し文体が変わったと指摘してくる人もいたが、そんなことは全く気にならなかった。
ただふとした拍子に、こんな道具を使うのは不誠実なのではという思いが立ち上ってきて、その度に胃がねじれた。日に日にクッションが緩くなっていくのも、原因の一つだったのかもしれない。ホラ吹きだと罵られる夢を見た。汗びっしょりで目覚めて、こんなもので見苦しく延命するよりもすっぱりと筆を折るべきではないかと幾度も思った。
きっと私は、以前から気づいていたのだ。クモをつけたせいで、それがはっきりしただけのことだ。だから穴があいた。そして、どんどん広がっていく。結末は変わらない。
私は所詮ホラ人間なのだから、こんな小細工をしたところで良い作品が書けるわけがないのだ。私が書かずとも、もっと才能のある人間がいくらでも素晴らしい作品を生み出してくれる。そもそも私が断筆したところで、気がつく人間など殆どいないだろう。ならば、いっそのこと。
そう考える度に、ぎりぎりで思いとどまった。もう少し待ってくれ。私はもう少し書いていたい。
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