35人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女は美しかった。顔の造形が、とか化粧が、などは私にはわからない。ただ、彼女には目をひく『憂い』があった。笑っている時も、歌っている時も、常に落ちる影があった。それが『自分と同じもの』だとはさすがに予想していなかったが、今にして思えば、あれは必然的な感情だったのかもしれない。
「私は、作家なんです。小説を書いているんですよ」
「まあ、すてき」
職業を明かすと、彼女は無邪気に羨ましがった。
「私、本を読むのが好きなんです。自分でも書いてみようとしたことがあったんですけれど。でも、だめでした。才能が足りないみたいで」
「と言っても私なんて、大して名も売れていない、ぱっとしない奴なんですけどね」
「それでも、すごいです。ペンネーム教えてください。探してきて、読んでみます。そうだ。今度お会いした時に、サインくださいね」
頬に毛をたらし、私の言葉を一心不乱にメモする彼女はとてもかわいらしかった。
「けれど、物を書くお仕事だったら、右手に穴があるのは不便ですね」
最初のコメントを投稿しよう!