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その奇妙な店は、奈落岬の目の前に建つ一戸建てで、死立ての設備などなにひとつ備わっていなかった。
彼が死立て屋の看板をくぐったのは、ちょうど黒縄神木のこずえに夏の陽がかかる時刻で、待合室の窓に切り取られた空が徐々にオレンジがかって行くのがとてもゆっくりに感じられた。
僕は黒いスーツに身を包み、赤ぶちの眼鏡をかけ、彼がベルを押すのを監視カメラ越しに待った。
現れたのは青い顔をしたひょろ長い少年だった。
「ミヤノヒラさまは当店で死立てて欲しい、そういうことでよろしいでしょうか」
僕は百人目の演者になった。
公安のこと以外はほとんど本当のことを話した。
エリスもそうだったのかもしれない。
彼女の本心をあばくためのマウンテンバイクは、今夜のうちに届くらしい。
新しい名前でさっそく借金をした僕の写真は、きっと百人目のポケットで図太く笑っているだろうと思う。
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