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「四泊五日というのは、どういうことですか」
ようやくしぼり出した質問が正解なのか分からないほど、ほのぼのとした魚のイラストは不気味な粒子をまとっていた。
ライトの影に隠された動物たちの骨格が、たくさんの細い糸となって僕の思考にからみついた。
「四泊五日のお魚さんプランは、お得な無料プランとなっております」
平坦な口調の中に、わずかな楽しみが隠されているのを僕は見逃さなかった。
死立てられに来たはずなのに、今夜はこのまま帰れるのだろうかという矛盾した恐怖がやわらかに背中をなでた。
「死立てに五日もかかるということですか」
僕が聞くと、エリスのデスクの上で手を組んで、おっしゃる通りですと言った。
「五日間かけて、魚の開きになっていただきます」
つばを飲み込むことも許されないような殺気が向けられ、僕は呼吸が早くなるのを感じた。
過換気のときと似ているが、いくら脳髄がパニックを訴えても、それだけでは死ぬことができない。
「五日もかかるのに、無料なのはどうしてですか」
吐く息が床下まで届くように思うくらい、大きな間があった。
目じりが笑っても、エリスの顔色は変わらなかった。
「わたくしの趣味だからです」
わたしではなく、わたくしと言った。
肺に酸素が入ってくれない。
いくら息を整えようとしても、わたくしという一人称が脳髄の奥深くに入りこみ、僕の呼吸を荒くした。
この部屋に飾られているのは、九十八人分の何かなのかもしれない。
「三泊四日の蛇さんプランは三百万円となっており、はらわたはお手元に残ります」
「二泊三日の鳥さんプランは六百万円となっており、両足はお手元に残ります」
「一泊二日の蜂さんプランは九百万円となっており、四肢がお手元に残ります」
エリスはにっこりと笑ってうなずいた。
「針を刺すだけの、無痛プランとなっております」
僕は言葉の真偽を彼女の瞳の奥に探った。
ただの拷問好きだったとしたら、彼女はこんなところに店を構え、アルバムやパンフレットなどつくらなくていい。
奈落岬や黒縄神木に誘われてやってきた人間を捕まえ、好きなようにすればよい。
いまこの瞬間に僕を眠らせることだってできる。
死立ての免許を持っているのだから、罪には問われない。
それをしないのは、無痛プランが本当で、九十八人の写真は死立ててもらう前の本物の笑顔だということだろうか。
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