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「それを苦にして自死や心中を選ぶ人がいるのが実状です」
措置法の施行は国家君主が失脚するほどの非難を浴びたが、死の悪循環と政権の大荒れをもたらしただけで、二十二世紀を踏んだ現在も生き残っている。
エリスはそういう事情をすべて理解しているだろうし、死んだ父母をかばうことに疲れた僕が、遺族という重荷を背負ってここに来ていることも、すでに斡旋所から聞いているだろう。
公安の中にも前君主や現政権に対立する組織があるという。
それが確か立飛組という名前だったような気がした。
「わたしはご遺族やご友人の悲しみまでケアすることはできませんが、死後に持ち越せない財産をはたくことによって、自死が書類上、自死でなくなるなら、それは比較的ベターな選択ではないかと考えています」
エリスは身を乗り出し、初めて自分から僕の眼を見すえた。
「それがわたしがここにいる理由です」
国内で唯一、死立ての免許を持った女性は、隠していた緊張を吐き出すようにして吐息をもらした。
プランの説明に割かれた十数分は、彼女にとっても存分に張り詰めた時間だったらしい。
それくらいの気迫がなければ、死立てられに来た人間から安易さや衝動性をたたき出すことはできないのだろう。
「当店の実績は、まだ決して多いとは言えませんけど」
彼女が頬をゆるませると、初めて女性らしい表情になったなと思った。
口調も少しくだけている。
「きっと、むかしの四十九人より、ずっと意義ある殺しだったんじゃないかな」
僕が言うと、エリスはむっとした顔になってデスクに頬杖をついた。
「殺しじゃなくて、死立てです」
きっぱりとした言葉の中に、わずかな幼さが見えた。
二十代後半くらいの年齢だろうが、中身はずっと子どもなのだろう。
「せっかくですから、死立ての前に冒険をしてみませんか」
エリスは頬杖をやめ、やわらかい口調で言った。
「いざ死立てをしようとすると、怖くて逃げ出そうとする人もいますので」
「どんな冒険なの」
「ツクモ山の崖っぷちでマウンテンバイクを転がすんです」
「度胸試しってこと?」
「肩慣らしのようなものです」
僕は小さくうなずいて彼女の提案を受け止めてから、遠慮させてもらうよと言った。
死立ての場よりもずっと理不尽な非難をくぐってきたから、僕はここにいる。
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