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「明日、蜂さんプランで頼むよ」
僕はそう言ってペンを出した。
契約書にサインをするつもりだったが、エリスは口の中で小さく、かしこまりましたと言っただけだった。
うつむいた消え入りそうな表情の中に、誘いを断られた恥ずかしさがあるのか、これから人を死立てなければいけない緊張があるのか、それは分からなかった。
「魚だとか蛇だとかいうのは、方便みたいなものなんでしょう」
僕は話題を変えた。
さっきのプランには迫力があったが、きっと覚悟を持って九百万を選ばせるためのハッタリだったのだろうと思った。
「こう見えても、痛めつけるのは好きなんですよ」
彼女は暗い雰囲気を打ち消すように、無邪気に笑って言った。
「七歳のとき、お師匠さまにスカウトされたんです。わたし、人を死立てる才能があるって」
話している内容にそぐわず、エリスは自分のむかし話に酔って、飛び上がってしまいそうだった。
「十一歳で師範代になったあと、お師匠さまの仕事を手伝えるのかなと思っていたら、お師匠さま、お子さんの方が大事になって、道場を閉めちゃったんです」
エリスは大きく息を吐いて言った。
「お師匠さま、息子さんがすくすく育っているのを見ていたら、もう死立てなんてやってられないって思い詰めて、旦那さんと一緒に田舎に引っ込んじゃったので、新居にお邪魔したとき、わたし決めたんです。自分は恋愛も結婚も禁止にしようって」
あどけない笑顔が、死立てだけに生きてきた彼女の内面の子どもっぽさを物語っていた。
恋をして、実らなくて、次へ進んで、傷つけて、傷つけられて、涙を流して、別れて、そういうことを全部すっとばして育ってしまったのだろう。
「死立てはわたしの天職だって思ってるんです」
彼女を見ていて悲しくなった。
ひょっとすると、彼女が死立てた四十九人の中には、本当に生きたまま腹を裂かれた人がいるのかもしれない。
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