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午後の日差しの中。多紀が青羽の勤める書店の前に立ったのは、最後に会ってから2週間が過ぎようという頃。
駐車場を出るまでは普段通りだった足取りが、入り口に近づくにつれて重くなる。
青羽とはきちんと話さなくてはいけないと思う一方、やはり顔を会わせにくいのは正直な気持ちで。
……このまま会わずにおくという選択肢もあった。遠からず彼はまた国外へ出るだろうから、二度と会わないでいることだって出来るだろうけれども。
唇をきゅ、と噛むと。多紀は店の自動ドアを潜った。
「いらっしゃいませ」
店員の声に迎えられてカウンターに視線を投げれば、そこに青羽の姿はない。 遅番かあるいは休みだったのだろうか。
何も直接来なくても彼の携帯に電話をすれば良かったんだと、今さらながら多紀が思いつく。
……どうも青羽が相手だと、うまく事を運べない。
吐息を落としながら頭を廻らせる。と、奥の書棚で本の整理をしている青羽の背中が見えて、心臓がとくんと大きく跳ねた。
無意識のうちに上がった手が、スーツの胸を軽く掴む。
ひとつ息を吸うと、多紀が歩き出した。
床に屈んだ青羽が、書棚の一番下にある引き出しを開けて本を取り出している。近づく足音に気づいてか、ふっと上げた顔がぎくりと強張った。
「――多紀、さん」
喉に引っかかった掠れ声。何かを言おうとした唇が開いて、また閉じた。
のろのろと立ち上がって、青羽が多紀と向かい合う……が、視線は床に落としたままだ。
「話したいことがある……今日は何時に上がりだ?」
多紀の問いに、青羽が怯んだように瞬きをした。
「……青羽くん?」
促されて、青羽がようやく口を開く。
「……夜の10時です」
「その頃に、駐車場で待っていてもいいか?」
はい、と俯いた青羽の視線が、多紀の左手に落ちる。見開いた黒い瞳がはっと上げられた。
物問いたげな視線には答えずに、多紀が手を軽く握りこむ。じゃあ、後でと言葉を残すと背を向けた。
――多紀さん……?
去っていくブルーグレイのスーツの背中を、戸惑った瞳のままで青羽は見送った。
その日の夜は週末のせいもあってか妙に客がたて混んだ。なのにどこか上の空の青羽は凡ミスを繰り返して、同僚に眉を顰められた。
多紀ともう一度顔を合わせるのは、正直怖かった。投げつけられるだろう言葉を予想するだけで胸苦しささえ覚える。そんな自分に苦い笑いが零れた。
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