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「佐古田先生」
言いながら、佐古田の顔を見る。鈍い佐古田にしては珍しく、不穏な気配を察したのか、一歩後ずさった。
瑤子は、すうっと息を吸い込み、それから一息で言葉を吐き出した。
「他人は他人です。人ばかりあてにしないで、自分が使うものくらい、自分で選びなさい。情けない」
続いて、二ノ宮先生に目を遣った。
「それから、二ノ宮先生」
「はい」
「佐古田くらい適当にかわしなさい」
──あ、呼び捨てにしてしまった。
ちょっとだけ、「しまった」と思い、すぐに「まあいいか」と開き直る。どうせ佐古田だ。
「大体、靴も財布も毎日使っているくせに、なんで覚えていないんですか。ほわんとしているにも程があります。そんなだから、なめられるんです」
「すみません──」
瑤子は、ふん、と鼻を鳴らした。それから、この不毛なやり取りの終結を宣言した。
「分かれば、よろしい。では、これで終了です。解散!」
パチパチパチパチ。
職員室のあちこちから、ぱらぱらとした拍手が聞こえてきた。
―「ある日の職員室」・終―
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