「ある日の職員室」 by くろきん

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──まあ、佐古田もアレだからね。  瑤子は、心の中でつぶやいて、パソコンの画面に視線を戻した。そのまま、英熟語の教材の作成に戻る。授業の初めに行う予定の三分間テストだ。  全部で二十問。そのうちの十問は、テキストの中からあらかじめ予告したものを並べるだけだが、残りの十問は、フリーで出題することにしている。  瑤子は、佐古田の顔を思い浮かべながら、熟語を追加した。 <get on one’s nerves (神経を逆なでする)>  二年生にはハイレベルすぎるだろうか。まあ、英訳じゃなくて日本語訳のテストだから、いいか。 「ほかに質問は?」  二ノ宮先生の穏やかな声が聞こえた。 「えっとー」  小南が、ちょっと戸惑った様子で言いながら、可愛らしく首をかしげてみせた。  もともと質問に来たんじゃなくて、二ノ宮先生に会いに(迫りに?)来たんだろうから、こんなふうに正面から「質問は」と聞かれても困るだろう。  分かって尋ねているんだとしたら、二ノ宮先生も意地悪だ。 「特にない? じゃあ、また質問があったら来てください」  二ノ宮先生は、めずらしくはっきり言って、さっさと話を切り上げた。それから、いかにも「仕事がある」という体で、資料を広げ始める。  やはり、分かった上でやっているらしい。小南が、「一体どうしちゃったの?」という顔できょとんとしている。 ──最初から、そうしておけばよかったのに。  瑤子は心の中でつぶやいた。  大体、二ノ宮先生は女子生徒に振り回されすぎだ。  面倒なことになるのはイヤだと思っているのがありありで、無難にやり過ごそうと適当に相手をしてしまった結果、余計に面倒なことになるという悪いパターンの典型だ。
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