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「──先生の彼女、かわいいですね」
周囲が、ざわっとした。
──二ノ宮先生に彼女!
着任以来三年間、女子生徒による男性教師の人気投票で不動の一位(モモからの情報)を誇る二ノ宮先生、少しほわんとしたところも「かわいい」と評されてしまう二ノ宮先生に、彼女が──!?
そんな心の叫びが聞こえてきそうだ。
瑤子に関しては、前に本人の口から「意中の人がいる」という話を聞かされていたし、二ノ宮先生がそうそう振られるとも思えないから、付き合い始めたと聞いても別に驚きはしない。
でも、小南を含め、この場にいる他の女性にとっては晴天の霹靂かもしれない。
今や、佐古田と二ノ宮先生の会話に、職員室中が聞き耳を立てている。漂う緊迫感に全く気づかない様子で、二ノ宮先生は言い放った。
「ええ、かわいいですよ。それが、何か?」
瑤子の隣から、「ちっ」と舌打ちが聞こえた。
思わず振り向くと、清楚でお花のようにかわいらしい家庭科の先生とばっちり目が合った。互いに、気まずい思いで目を逸らす。
「──僕のですからね」
二ノ宮先生の冗談めいた口調に、本気がにじんでいた。
話の流れからすると、佐古田と二ノ宮先生の彼女はどこかで顔を合わせたらしい。そして、二ノ宮先生は佐古田を警戒している。
まさか、この佐古田を相手に予防線を張ろうとしているんだろうか。二ノ宮先生と佐古田とじゃ、そもそも勝負にすらならないだろうに、自覚のないイケメンって怖い。
少しだけ、佐古田がかわいそうになった。
<losing game (勝ち目のない戦い)>
またもや、指が勝手にキーボードをたたく。
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