Chapter 1 その花の名は

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 つり革にぶら下がるようにして立ちながら、穂花は、窓の外をぼんやり眺めた。  バスは、お城を左手に見ながら、お堀に沿って走っていく。ちなみに、お城は、このまちの重要なアイデンティティーの一つで、ランドマーク的存在にもなっている。 ──えー、信号停車です。足元にお気をつけください。  だみ声のアナウンスが入り、バスが、がくんと揺れて停まった。  その時、何かが意識をかすめた。目に映ったものの中の何かが、前に見た時と違っているような気がする。  穂花は、湿気で曇った窓の向こうに目を凝らした。気のせいか、お堀の水面がなんとなく華やいでいる──ように見える。 ──?  目を凝らしてみたけれど、窓についたたくさんの水滴にさえぎられて、よく分からない。  やがて信号が青に変わり、バスは再び走り出した。穂花は、目にしたもののことを、そのまま忘れてしまった。
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