第1章

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何も直接来なくても彼の携帯に電話をすれば良かったんだと、 今さらながら多紀が思いつく。 ……どうも青羽が相手だと、 うまく事を運べない。 吐息を落としながら頭を廻らせる。 と、 奥の書棚で本の整理をしている青羽の背中が見えて、 心臓がとくんと大きく跳ねた。 無意識のうちに上がった手が、 スーツの胸を軽く掴む。 ひとつ息を吸うと、 多紀が歩き出した。 床に屈んだ青羽が、 書棚の一番下にある引き出しを開けて本を取り出している。 近づく足音に気づいてか、 ふっと上げた顔がぎくりと強張った。 「――多紀、 さん」 喉に引っかかった掠れ声。 何かを言おうとした唇が開いて、 また閉じた。
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