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何も直接来なくても彼の携帯に電話をすれば良かったんだと、
今さらながら多紀が思いつく。
……どうも青羽が相手だと、
うまく事を運べない。
吐息を落としながら頭を廻らせる。
と、
奥の書棚で本の整理をしている青羽の背中が見えて、
心臓がとくんと大きく跳ねた。
無意識のうちに上がった手が、
スーツの胸を軽く掴む。
ひとつ息を吸うと、
多紀が歩き出した。
床に屈んだ青羽が、
書棚の一番下にある引き出しを開けて本を取り出している。
近づく足音に気づいてか、
ふっと上げた顔がぎくりと強張った。
「――多紀、
さん」
喉に引っかかった掠れ声。
何かを言おうとした唇が開いて、
また閉じた。
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