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のろのろと立ち上がって、
青羽が多紀と向かい合う……が、
視線は床に落としたままだ。
「話したいことがある……今日は何時に上がりだ?」
多紀の問いに、
青羽が怯んだように瞬きをした。
「……青羽くん?」
促されて、
青羽がようやく口を開く。
「……夜の10時です」
「その頃に、
駐車場で待っていてもいいか?」
はい、
と俯いた青羽の視線が、
多紀の左手に落ちる。
見開いた黒い瞳がはっと上げられた。
物問いたげな視線には答えずに、
多紀が手を軽く握りこむ。
じゃあ、
後でと言葉を残すと背を向けた。
――多紀さん……?
去っていくブルーグレイのスーツの背中を、
戸惑った瞳のままで青羽は見送った。
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