第1章

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のろのろと立ち上がって、 青羽が多紀と向かい合う……が、 視線は床に落としたままだ。 「話したいことがある……今日は何時に上がりだ?」 多紀の問いに、 青羽が怯んだように瞬きをした。 「……青羽くん?」 促されて、 青羽がようやく口を開く。 「……夜の10時です」 「その頃に、 駐車場で待っていてもいいか?」 はい、 と俯いた青羽の視線が、 多紀の左手に落ちる。 見開いた黒い瞳がはっと上げられた。 物問いたげな視線には答えずに、 多紀が手を軽く握りこむ。 じゃあ、 後でと言葉を残すと背を向けた。 ――多紀さん……? 去っていくブルーグレイのスーツの背中を、 戸惑った瞳のままで青羽は見送った。
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