そして、喫茶店

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カップを口に運びながら、その爽やかな香りを吸い込んだ。柑橘と、少しの花の香り。 「そういえば、このお店の名前、どういう意味なんですか?」 “take shelter”の意味が少し気になっていた。 「あぁ、省略してしまっていますが、テイク シェルター フロム ザ レインで、雨宿りっていう意味ですよ」 take shelter from the rain. 頭の中で繰り返す。意味がやはりスッと心に入ってきた。たしかに、ここは私にとって必要な場所だったのかもしれない。ひどく降り出した雨が、やっと止んだような気分だった。 もう起きた事実を、変えることはできない。それ相応の代償はきっとあるだろう。それでも、失ったものの代わりに新しく得られるものがきっとあるはずだから。彼の切ない瞳も、声色も、いつかは色褪せる日が来るかもしれない。あるいは、何かにかたちを変えて。その日が来るまでは、精一杯悩めばいい。悩んで悩んで、そうして選んだものを大切にできればいい。そう心に決めて、私は紅茶を口に含んだのだった。
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