彼と私

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「いや、そんな深く考えなくていいよ。もしもって話。いや、いっか。気にしないで」 そう言うと、彼は話題を変えてしまった。そのあとも、懐かしい話題に花を咲かせたり近況を話したりして電話を切った。 私は携帯を握りしめたまま、ただ考えを巡らせていた。今、自分が彼のことをどう思っているのか、人を好きになるというのはどういうものだったのか、なにも分からなくなっていた。どうして、私は自分を見失うんだろう。こたえの出ない問いだけが頭の中をぐるぐる回って、気付けば、彼から電話が来てから3時間が過ぎていた。 今日は寝よう、そう踏ん切りを付けて就寝したのは午前2時を回った頃だった。 その夜、私は夢を見ていた。昔から、結婚するのが夢だった。そんな私の隣に、ひどく優しく、暖かな笑顔をした人が寄り添っている。なにか言葉を交わして、私たちは誰よりも幸福であるかのように笑い合っていた。もうどこかに置いてきたような、そんな幸せな夢を見て目が覚めた。 「あれ、誰だったんだろ…」 思い出そうにもその彼の顔はぼやけていて、記憶はどんどん輪郭を失くしていった。 「あ、仕事に行かなきゃ」 時計に目をやると、もういつも家を出る時間になっていた。
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