muzina

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 その奇妙な店は坂の上にあった。店と言っても小さな屋台だ。軒先には赤提灯が吊るされ、暖簾には〝おでん〟の文字が踊っている。小さな升目に区切られた鍋には具材がぎっしりと並び、ぐつぐつと音を立てていた。  そこで私は店番をしている。しかしそれは私の意思によるものではない。  こんな羽目に陥ってもう一年近くになるだろうか。その間客はひとりも来ない。あまりにも単調な毎日なので日々の記憶はあやふやになっているが、あの夜のことだけははっきりと覚えていた。
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