桜の館

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 生憎の雨模様となった祝日。  蒲田駅より目的地に近いという理由で待ち合わせに選んだ池上駅に着くなり、早苗は電車の降車ドアから飛び出した。  改札を抜けると目の前に小さな露店があり、見知った背中が雑多な商品をしげしげと眺めていた。 「ごめん、シンちゃん!」  駆け寄って呼びかけると、気づいた信司がこちらを見て笑う。 「こんにちは、早苗さん」  時刻は昼時を少し回っている。待ち合わせの時間からは、優に一時間は遅れていた。 「ごめん! 遅れて! イレギュラーで会議が入って……間に合うかと思ったんだけど、終わらなかったわ」 「いいですよ」  連絡もらってましたし、とこともなげに言って、信司が早苗の肩にかかった着替え用バッグ、それから通勤用鞄に手をかけた。 「ま、待って。これ重いから」  着替え用バックはともかく、教師の通勤用鞄は常に書類がパンパンに詰まった重量バーベルだ。人に持たせるには気が引ける。  取り上げられた荷物はしかし、追いすがる早苗の手から、すい、と遠ざけられると反対側の肩にかけられてしまった。
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