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「行きましょうか」
ぱん、と傘を広げて、信司が促す。流れるようなその仕草に、早苗は思わず肩を竦めて感嘆した。
「シンちゃんてモテそう」
「まさか」
早苗が傘を差すのを待ってから、近すぎず遠すぎず、隣を歩き出した信司が笑う。
「この顔では敬遠される事の方が多いですよ」
踏切を渡りながらにこにこと言う信司は、一重なのが災いしてか、確かに少々目つきがキツかった。強面、というほど造りが強固なわけでは無いのだが、どこか相手を怯ませる雰囲気を放っているのだ。
実態はといえば、細やかな気遣いのできる極めて穏やかな人間なので、惜しいことだと早苗は思う。
「もったいないわねー」
「そんなこと言ってくれるのは早苗さんくらいです」
言いながら、車道側を歩く信司がほんの少し、早苗の方に身を寄せてきた。早苗を更に内側に寄せるような動きだった。
車道を走る車が弾き飛ばす水しぶきが早苗の足下まで届いているのに気づいたらしい。
そういうところがモテそうなんだけどなあ、と早苗は内心苦笑する。
モテないと思っているのは自分だけじゃないのか、と。
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