そうだ、銭湯に行こう!

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「おもしろそうな本ですね」  思考を遮ったのは早苗の手から文庫を取り上げてペラペラとめくっていた信司の声だ。 「主人公の女の子かわいいですし。早苗さんが好きそうな話じゃないですか」 「そう! そうなのよ! その子がかわいいのよ!」  分かる!? とカウンターに手をついて身を乗り出す。 「下町銭湯を舞台にあったかい心のやりとりを目撃するような作品でねえ。読んだら絶対銭湯行きたくなるわよ!」  力説する早苗に、信司が目を細めて柔和に笑った。 「シンちゃん、オールドブッシュミルズ」  興味の無さそうな一貴の声が水を差す。「はい」と軽く頷いて信司が早苗の手に文庫を返した。 「分からないからって邪魔しないでよ」  信司にもっと話を聞いてもらいたかった早苗は、ぶうたれて一貴を睨む。流し目で早苗を見やってから「そうじゃなくてね」と一貴が頬杖をついた。 「その本が早苗サンのお気に召したのは分かったけど、だからって俺たちに向かって『銭湯行きたい』はないでしょ」 「何でよ」  何が問題なのよ、と席に座り直して早苗は問う。  面倒くさそうに眉を寄せると、一貴がふう、とため息をついた。 「いや、だから。『銭湯に行きたい』って何それ、感想? それとも一緒に行こうって意味? 前者だったらここまで話掘り下げる必要ないし、後者だったら、あんたどこに目えついてんのかなと思って」
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