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「はあ?」
意味の分からぬまま何やら馬鹿にされたらしいことだけ理解して、早苗は好戦的に相手に挑んだ。そんな早苗に肩を竦めて、一貴が目の前に静かに置かれたグラスに手を伸ばした。
「怒らないでよ、早苗サン。俺はただ、一緒に行こうって誘うなら俺たちは相応しくないと思っただけだから」
「どうしてよ」
「どうしてって……」
呆れた顔で、一貴が早苗を見る。
「あんた俺たち何に見えてんの。男ですよ一応。男。銭湯なんか連れ立って行っても一緒に入れるわけじゃないだろ。一緒に入りたいなら誘うのは銭湯じゃなくてラブホ。色々間違えてる」
「あんたねえ」
色々間違えてるのはお前の方だ。
女と風呂=セックス≒一緒に入れなきゃ意味ない、という公式を恥じらいも無くはじき出した一貴に肩を落とす。
「いいじゃないのよ、一緒に入れなくても。一緒に行って、別々に入って、お風呂よかったねって言い合えればそれで」
「何それ楽しいの?」
「楽しいわよ! しかももれなく私の風呂上がり姿つきよ!」
「それは見飽きてるし別にいい」
見飽きてるって……。
絶句して、早苗は一貴の顔を凝視した。最近こそご無沙汰になったが、一貴とは頻繁に体だけの関係があり、確かに今更物珍しくもないのだろうが。
「……物言いが下衆……」
つい本音をこぼすと一貴がぷい、とそっぽを向いた。
先生はずっと優しいよ、と早苗を睨んだかの女子高生は、やっぱり彼の事を買いかぶり過ぎだ。
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