疑心暗鬼(ためし読み版)

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 神村今朝子(かみむらけさこ)は、幼い頃からおばあちゃん子であった。両親が共働きであったが故に、日中相手をしてくれるのが祖母しかいなかったからだ。  今朝子が生まれたのは、山深い山村であった。川が削った谷のわずかな土地を分け合い、人々が肩を寄せ合って暮らしている小さな村だった。村は自然豊かであったが、大きな産業もなく、若者はどんどん都会に出て行ってしまっていた。  過疎が進む村は、子どもが少なかった。商店が集まる中心部から離れるにつれそれは顕著になっていき、山に近い集落では、子どもがたったひとりしかいないなどというのも珍しくはなかった。今朝子が住んでいる地区も子どもが少なく、その「子ども」もみんな年上ばかりで、同年代といえるような子はひとりもいなかった。保育園に入るまで、遠くに暮らす親族以外に同年代の子を見たことがなかったくらいだった。そんな調子であるから、兄弟のいない今朝子の遊び相手は、自然と祖母になっていったのだった。  祖母は両親が不在の間、炊事などの家の仕事を全て行っていた。そこにはもちろん、まだ言葉も話せぬ今朝子の世話も含まれていた。保育園に通う以前の子どもを預ける施設のないこの村では、家にいる祖父母が孫の面倒を見るのは珍しい話ではない。月に一度の通院に孫を連れてくるような人もちらほらと見かけるぐらいで、神村家もそんな世帯のひとつであった。  祖母が遊び相手であったので、今朝子は、お手玉やあやとりなどの素朴な遊びに囲まれて育った。しかし、今朝子はそういう遊びの類より、祖母が話してくれる昔話が大好きだった。母は寝る前に絵本をよく読んでくれたが、祖母の話はそれとは全く違った。
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