溺愛ラビリンス

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 加藤智章(かとうともあき)。明は小さい頃から兄弟のようにして育ってきた智明を”智にい”と呼ぶ。  背の高い智章を、背後にある青い空を見上げるようにして振り仰ぐと眩しくて、明は目を細めて笑った。朝陽に縁取られた智章の顔も、少し困ったように歪んでいる。 「ま、目の届かない所にいるよりは良いか」  複雑そうなため息をついて目をそらす智章の言いたいことは見当がつく。女みたいな弱さのある明が学校で冷やかされたり、いじめられたりすることを心配しているのだ。  人一倍、明の体が弱いことを知っているためか、幼稚園のころから番犬のように明の身近にいる智章だ。いじめっ子を撃退したり、こうしてカバンを持ってくれたり、学校で熱を出した明を背負って病院まで運んでくれたこともある。  一足先に中学へ上がる時や、高校へ進学する時、智章は明を心配して、昼休みや放課後に様子を見に来たものだ。 「心配してるの? 智にいがいたら、どこだって大丈夫だよ」 「うっは~! それってすっげ口説き文句。アキかわいい~!」  大きな手でぐしゃぐしゃと髪をかき回す。じゃれあう二人は本当の兄弟のように見えるかもしれない。  親がいなくても、兄弟がいなくても、叔父との秘密を抱えていても。智章がいてくれたらきっと大丈夫だ。
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