溺愛ラビリンス

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「ん……」  気を抜くと漏れ出てしまう恥かしい声を必死で押し殺しながら、明は軋むベッドの音が気になってしょうがない。  静かな夜半。やけに音が部屋の中で響いている。絡まる呼吸。交じり合う体液。許されるなら自分の耳を塞ぎたい。  三階建ての官舎は築30年を過ぎ、随分と古い。  上の階に住む家族の足音や、子供を叱るお母さんの声、下の階の玄関を開ける音や、洗濯機の回る音まで聞こえるのだから、このいかにも……な規則的なスプリングの弾む音は、下の階にも聞こえているはずだと、冷めた頭の片隅が考えた。ヘタをすればこの声だって、外に漏れているかもしれない。 「……おじさん、も……」 「アキ……、もう少し」  叔父の圧し掛かる身体の動きが激しくなり、ますますベッドが軋む。淫らな音がする。この音を早く止めたい。  枕を顔に引き寄せるようにして口を覆った。そうでもしなければ大声を出してしまいそうだ。  引き攣れるような快感がある。浮かんで、沈んで、あらぬ場所へ放り投げられる。そして自分の居場所がわからなくて、恐怖に近い痺れに襲われる。いったいいつからこんないやらしい身体になったのだろう。  明は冷えた心の奥底で思う。自分はどうなってしまうのかと。
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