溺愛ラビリンス

22/34
前へ
/475ページ
次へ
「おい」  智章と別れて校門でぼんやりしていた明は、後ろ頭を掠めるようにパシッとたたかれた。 「……て」 「人前でイチャついてんじゃねーよ」 「あ、浩、おはよう」 「日直」 「うん」 「カバン」 「え?」 「カバンかせ」 「い、いいよ……。自分で持つ」 「かせって! おら早足!」  同じクラスの浩は2年の春に転校してきた。浩は転校に慣れているのか、もともとそういう性格なのか、いつもぶっきらぼうで言葉少い。質問攻めにあったり、取り囲まれていたのは始めだけで、いかにもめんどくさそうなぞんざいな雰囲気に気圧され、遠巻きにされだすと、今度は女子の注目を集めるようになる。シャープな面差しに似合いすぎる切れ長の目や、冷やりとした静けさを感じさせる風情が、クールで大人っぽいのだ。  何よりも、陸上部短距離のスプリンターとしてのしなやかな体は端整でかっこいい。明の貧弱な細さとは違う、鋼のような細身が風を切って走る姿はグランドで熱い視線を集めた。
/475ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2436人が本棚に入れています
本棚に追加