溺愛ラビリンス

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 さわさわと乾いた風がカーテンを揺らす日などは、一緒に眠ってしまい、互いに寝ぼけ眼で目覚めた後、顔を突き合わせて笑い転げた。おかげでいつになく体調の良い夏を過ごし、何気ない日常を楽しいと思えることに感謝すらした。  一方で、夜になると叔父からキスをされるという非日常が際立って、明の中で動かしがたいしこりとなっていた。  お盆休み。  浩は母方の田舎へ行くらしい。  「お土産を楽しみにしてろよ」と部活のない日にわざわざ言いに来て、何だか「待ってろよ」と言われたみたいで照れくさくなった。  叔父と明は、両親の墓参りへ行くのが例年の習わしだ。親が居ないことを寂しいと思わないと言えばウソになる。両親と過ごした思い出は、少しずつ色あせて、曖昧になっていくのが哀しくて、明は必死で寂しさを押し込める。そうして感情を麻痺させてきた。  父の背は大きかった。  母の手は柔らかかった。  そんな漠然とした思い出にすがりつくことすら辛かったから。だって、叔父は親じゃない。だから、きっとこんなことをする。  嫌だと言ったのに。痛いと泣いたのに。
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