溺愛ラビリンス

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「大丈夫、大丈夫だから、浩君。ここ……、座って」  怪訝そうな顔をしながら尚も心配なのか、浩は「おじさんのベッドは? そっちで寝るか?」と残酷なことを言う。  自分がどんな顔をしているのかわからない。泣きそうなのか、苦しそうなのか、きっと普通じゃないと気づかれただろう。それでも明は、ただ、嫌々をするように首を振るしかなかった。 「立ちくらみだから平気だよ。気にしないで、ね?」 「驚いたぜ。時々ああなるのか?」 「昨日、お墓参りに行ったんだ。暑くて……、疲れたんだよ、きっと」 「本当に大丈夫なのか?」  戸惑い覗き込む浩の足元で、大きな紙袋がガサリと音をたてた。 「あ、これお土産。ばーちゃんちで採れた野菜」  浩は頭をかき、照れくさそうに笑う。その笑顔に救われる。 「昼飯食った?」 「ううん……、まだ」 「きゅうり食え」 「へ?」 「きゅうり」  浩はそう言いながら紙袋から2本のきゅうりを取り出して、勝手知ったるキッチンでガタゴトやりだした。
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