溺愛ラビリンス

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 お昼どころか朝ごはんも食べてないし、昨夜から水一滴すらも口にしていない。急に体が乾いていることに気づいて、唾液を飲み込むと喉が張り付いた。なたで切ったような乱切りのきゅうりに、無造作にマヨネーズをかけてあるだけの、自称”きゅうりのサラダ”がとても美味しそうに見える。 「採れたて無農薬」  にっと笑いながら、自分は丸ごとのきゅうりをしゃくしゃくと食べている。瑞々しいきゅうりは清らかな味がした。 「美味しい……」 「あと、トマトととうもろこし。昼飯のお礼」 「ありがとう」   ぽりぽりと、爽やかな音がしみこむようで、今、浩に会えてよかったと涙が出そうになった。 「ほんとに大丈夫なのか?」 「うん……、そう言えば朝ごはんも食べてなくて。きっとその所為だね」 「ばっ! 信じられねぇ! 朝から何も食ってないわけ?!」  ぱり……と、小気味良い音できゅうりをほおばりながら、何だか力が抜けて、へらへらと笑ってしまった。
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