溺愛ラビリンス

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 明は浩の腕を掴んだ。膝の上の空になった小皿が床に落ちて、コトリと音を立てて転がる。空気が止まった明と浩の間にだけ、見えない風が吹き抜けた。  角度を変えて合わさった唇は、なんの違和感もなくしっくりと重なった。昨夜の叔父の、むせ返るような熱さと激しさとは違う、静かで穏やかなキスだった。  かぶさるようにかがみこんでいる浩と、しがみつきながら首を伸ばす明と、一つになった影が、通り過ぎる夢のようで、何の不安も罪悪感もないままに、少しだけ長いキスをした。  唇が、ちゅ……と音を立てて離れた時、二人は目を閉じていた。 「さくらんぼの味がした?」 「きゅうりだった」 「ぼくも、きゅうりの味がした」 「ヘンだな、おれ達」 「うん……、キスしちゃったね」
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