溺愛ラビリンス

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「おれ、明みたいな友達が出来たの初めてなんだ」 「ぼくもだよ、浩君」 「浩って言えよ」 「……ひろし」 「おれ達、気が合うと思わね?」 「合うかも」 「じゃあ、これからも友達な?」  白い歯を弾けさせる浩の笑顔がとても大切なもののようで、明は一緒に笑おうと思ったのに、零れたのは笑顔じゃなくて涙だった。 「うわわ……! ごめんって! そんなに嫌だったのかよぉ」 「違っ……。違う……、違うよ……」  逃れられない運命の軋む音が聞こえる。ガラガラと音をたてて崩れていくのは、昨日まで見上げていた青い空と穏やかな日常。  教えてほしい。どうしてこんなことになったのか。どこで間違えたのか、何が悪かったのか、理由があるなら教えて欲しい。それでも叔父は帰ってくるだろう。夜が来て、朝が来て、明日もきっと泣いてしまうだろう。そうして秘密は増え続けるのだ。この部屋で。澱んだ空気を吸いながら。 「ずっと……、友達でいて……。お願い。浩く……、浩。浩」 「明……」  涙が止まらなくてしゃくりあげる明の背を、浩はずっとさすっていた。叔父の熱い手の愛撫とは違う優しい暖かさに、明はゆっくりと胸が痛くなった。
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