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「おい! 佐々、待て!」
白く磨かれた病院の廊下を、大きな男がばさばさと白衣を翻しながら歩いている。大股で闊歩する男の後ろから、この病院のお局看護師長が焦ったように付いて走った。医局から出てきた佐々と呼ばれた青年医師は、ぎょっとした顔をして固まっている。どうやら、この大男が苦手らしい。乱暴に腕を取られ羽交い絞めにされながら、諦めたようなため息をついた。
「あの……、院長……。おれ帰りたいんですけど」
「そう急ぐな。すぐ終わる」
「何がですか……」
「4時半からのアッペだ」
「アッペは山下先生ですよ」
「あいつは3回目のアッペだ。お前、前立てに入れ」
「え~!? 癒着があるから院長が前立てするって」
「おれは予定が入った。お前がやるんだ」
「おれ、デートなんすよぉ……」
「うるさい、女なんか待たせとけ。おれは特外来にいるからな」
「え~~、そんなぁ~」
どん……と、背を突かれ医局へ押し戻されると、師長が申し訳なさそうに言い訳をした。
「ごめんなさいね。外来の予約を伝え忘れてて……」
「あの人、外来なんか嫌いなくせに」
ぶつぶつ文句を言いながら、彼女への言い訳メールを打つ佐々に、師長は声を潜めて呆れた耳打ちをした。
「明君よ」
「あああ~あ~……」
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