2/6
2406人が本棚に入れています
本棚に追加
/475ページ
「おい! 佐々、待て!」  白く磨かれた病院の廊下を、大きな男がばさばさと白衣を翻しながら歩いている。大股で闊歩する男の後ろから、この病院のお局看護師長が焦ったように付いて走った。医局から出てきた佐々と呼ばれた青年医師は、ぎょっとした顔をして固まっている。どうやら、この大男が苦手らしい。乱暴に腕を取られ羽交い絞めにされながら、諦めたようなため息をついた。 「あの……、院長……。おれ帰りたいんですけど」 「そう急ぐな。すぐ終わる」 「何がですか……」 「4時半からのアッペだ」 「アッペは山下先生ですよ」 「あいつは3回目のアッペだ。お前、前立てに入れ」 「え~!? 癒着があるから院長が前立てするって」 「おれは予定が入った。お前がやるんだ」 「おれ、デートなんすよぉ……」 「うるさい、女なんか待たせとけ。おれは特外来にいるからな」 「え~~、そんなぁ~」  どん……と、背を突かれ医局へ押し戻されると、師長が申し訳なさそうに言い訳をした。 「ごめんなさいね。外来の予約を伝え忘れてて……」 「あの人、外来なんか嫌いなくせに」  ぶつぶつ文句を言いながら、彼女への言い訳メールを打つ佐々に、師長は声を潜めて呆れた耳打ちをした。 「明君よ」 「あああ~あ~……」
/475ページ

最初のコメントを投稿しよう!