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 幼い頃から女の子のように愛らしく、少しずつ美しく成長していく様子を楽しみに見守っているのは、院長だけではない。古参の看護師や掃除のおばさんはもちろん、先代の頃から勤めている医師の間でも、「明君」はとても可愛がられていた。  それが3年前。突然先代の院長が他界し道隆に代替わりしてからは、院長の特権だと堂々と宣言して、半ば独占的に院長が「明君」を囲っている状況だ。  時に、院長が海外出張等で、留守の間に「明君」を診察した内科医は、帰国した院長から冷たい視線を浴びせられ、元が強面なだけに、心底凍りつく思いをすると言う。  当の「明君」は、そんな院内のしがらみを関知することなく、今日も、特別診察室の中待合にちょこんと座っていた。  院長専用特別診察室は裏口から程近い、少し奥まった場所にあり、大物政治家や、有名人、スポーツ選手などがお忍びで来るために、外回りは植栽で埋め尽くされ、表のざわつきは伝わってこない。待合室の調度品も落ち着いた物で揃えられており、ちょっとしたラウンジのようだ。  すわり心地の良いソファの並ぶ中で「明君」はいつも、診察室入り口近くにある、背もたれの高い、小さな椅子に腰掛けて待っている。 「待たせたね、明君」 「道隆先生、師長さん、こんにちわ」  少年らしい仕草でピョコンと立ち上がり、「明君」はふわりと微笑む。
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