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「申し送りに手間取ってね、悪かったね」 「先生、忙しいのにごめんなさい。ぼく今日は、本当は薬だけでよかったんです」 「おやおや、そんなつれないことを言わないでくれよ」 「でも先生、帰国されたばかりだって……、疲れていませんか?」 「明君を見たら元気になった。胸の音を聞いたらもっと元気になりそうだ。さあおいで」 「ぼく……、先生に会いたかっただけなんです。本当にごめんなさい」 「うれしいね、疲れが吹き飛ぶようだ」  道隆は、明の体をガラス細工のようだと常々思っている。繊細で弱々しく、触れ方を間違えたなら、あっと言う間に手垢で汚れるか、手を滑り落ちて砕け散ってしまいそうだと。  初めて明を診察したのは研修医の頃だ。  アルバイトの夜勤で詰めていた所へ、喘息の発作で苦しむ明が両親と共に駆け込んで来た。チアノーゼを起こしかけている白い顔が、あまりにも綺麗で、不謹慎にも見とれてしまった。それが女の子ではなく男の子だとカルテで知り、父が良く話をしていた「天使のような子」だと気づいた時には、目が離せないほど魅入られていた。
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