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 父が突然他界し、母から帰って来て欲しいと泣きつかれた時、「天使の子」が道隆の頭の隅をよぎったのだ。  いくつになっただろう。まだ喘息に苦しんでいるだろうかと、あの時の気持ちの動揺ですらはっきりと覚えていたものだ。  彼の環境の変化は正直ショックだった。両親を一度に亡くし、どれだけ悲しんだか。どれだけ苦しんだか。あのつぶらな瞳から流れる涙を思うと胸が痛む。 ――おれもオヤジの二の舞か。  風呂上りにビールを飲みながら「明君」の話をする父は上機嫌だった。 『ほんとにあんな可愛い子はいないよ。今日はリンパ触診のフリをして思わず頬をさすってしまった。一度でいいからぎゅ~っと抱きしめてみたいなぁははは』  変態ロリコンオヤジとバカにしていたが、あの子を見た後では、それもダメ押しの困惑の中にまぎれるように曖昧になる。「見守りたい」から、「守りたい」へ、そしていつしか「自分のものにしたい」と言う欲求へ、何かが転がり落ちるようにのめり込む自分に戸惑いながらも、確信のように止めることをしなかった。たとえば医師と患者ではなかったらと。
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