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忙しそうに白衣を翻しながら大股で歩く道隆が、明には眩しい。
あの勢いで、この大きな病院を引っ張っていると思うと、尊敬と言うより、想像もつかない世界を生きている人なのだと、恐ろしい気もした。
大きな手でふわりと肩を抱かれて診察室に入る時、明の脈拍は跳ね上がる。立ち上がってくる道隆のコロンが大人の匂いのようで、服越しにもわかる筋肉質な体や、見上げるような男らしさに胸が痛くなる。体の弱い明を道隆は特別に大切にしてくれても、立場も住む世界も全く違う人だ。大人と子供。患者と医師。ただそれだけの関係はどう頑張っても埋まらない。
耳下に伸びてくる道隆の両手が明の顔を挟むように添えられる。少し冷たくて長い指が、首を伝って鎖骨を探る。明はざわめく肌を必死で堪えた。
「明君、今度の日曜日、おれとデートしない?」
「え…?」
「おれさぁ、3ヶ月ぶりの休みなんだよね。ドライブへ行こうよ」
突然の会話に明はきょとんと道隆をみつめた。
「デー……ト?」
「何か都合がある?」
「えと……あの、今度の日曜はその、友達の弓道の試合を見に行くって約束してて」
「いいねそれ。一緒に行こうよ」
「はい?!」
「あ、もしかして彼女と一緒? だったら遠慮するけど」
「いえ、そんな……、ぼく彼女なんていません!」
ブンブンと手を振り顔を振り、パニックのように反応する明に道隆は面白そうにニヤリと笑った。その後ろで師長が困った顔で苦笑い、窓の向こうの大きなケヤキの木の葉がざわざわと、何かの予兆のように揺れていた。
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