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「くそっ!」  ばん! と机を殴り、叩き落されたカルテを慌てて拾う師長が諭すように言った。 「院長……。あまり深入りなさいませんように」 「なぜ? おれは本気だよ?」 「明君はまだ中学生です。戯れでしたら彼を傷つけるだけです」  師長は道隆がバイであることを知っている院内で唯一の女性だ。跡継ぎであるはずの道隆が一時的とは言え芦屋病院を離れた理由も知っている。当時付き合っていた彼の恋人が男だったために、先代の院長との確執となっていたからだ。バイであるからこそ見えてしまうことがある。明の見せる憂い。体に触れた時の強張る肌。つらそうに揺れる瞳。明には体の関係を持つ男がいると。 「本気だと言っている」  道隆の、深い影に沈んだ眼差しが、鋭く光った。
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