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 道隆が着ていた黒いライダージャケットを、今度は真樹が着る。全てを仕組んだ真樹がそこにいて、「じゃあな」と笑った。  真樹は踵を返し、振り向かずに玄関を出て行った。  残された明もまた、身に残る真樹の温もりを手繰るように、自分の腕を抱き「ありがとう」とつぶやいた。  締められた玄関の重々しいドアを見つめ続ける明の細い背中から、道隆の翼が広がり包み込む。 「やっと手に入れた……」  耳元を擽る低い声が、明の背を這い昇る。 「大好き。道隆さんが好きだよ。もう……我慢しないでいいんだよね」 「当たり前だ」 「ずっと、ずっと、言いたかったんだ。道隆さんが一番好き! 大好…っ」  暗闇の中に突き落とされて、何度も何度も飲み込んだ言葉を、呪縛から解き放たれたように明は想いを乗せ、飽きるほど言いたいと思った言葉は途中で掻き消えた。  嬉しいとも、恥かしいとも、考える余裕のないキスが、明の全てを奪おうとするかのように襲い掛かり、口中を犯した。  待っていた。ずっと欲しかった、こんな獣のようなキスを。  道隆さんの、力強い腕を……!ずっと待っていた!  抱きしめられる子の腕の彼方にあるものが何であろうと、今を感じることの出来る幸せがある。  融け合う肌が、だた心地いい。  海に漂い泳ぐように。  両手を広げて空を飛ぶように。  明は素直に道隆を感じた。
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