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「…….」
眼を瞑ったまま黙り混んでしまった主人だが、暫くして対面式の接客席から出て来ると何を思ったのか着々と店仕舞いを始めてしまった。
戸締まりをしっかり確認すると、再び男のいる方へと向き直った。
店仕舞いだから帰ってくれ、とでも言われるのだろうと噺は諦めて帰ろうかと身支度を整えようとした瞬間。
驚くことに、主人は一つ空けて男の横に腰かけたのだ。
そして煙管に再び口付け、煙をゆっくりと吐き出した。
「…本当は村の奴以外には話しちゃいけねぇーんですがね、絶対に広めないとお約束して下さるのなら……お噺いたしましょう」
静かに口にした主人の言葉に、男はゆっくりと首を縦に振った。
男の真剣なその顔付きに、主人は仕方ないか…と自分に言い聞かせでもしているのか。強張ったその顔に少しだけ笑みを浮かべた。
そしてそんな主人を前に、男は心の中で妖しく笑みを浮かべていた事など…主人は知る由もない―…。
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