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生コン打設ですか。
「今日はどんな現場なんですか。」
「ああ、国家公務員の独身寮を建ててるんだけど、そこの交通誘導だよ。」
運転中の英治は、助手席の未佳に顔を向けることなく答えた。
「うちの会社って寮はないんですか。」
「ないね。地元採用だから寮は必要ないんだって建前でね。」
未佳はふぅんと興味なさげな返答をする。
独身寮にも興味がなかったが、英治の少し皮肉交じりの大人な返答にも興味がなかったのだ。
「現場の入口で、大型車が入るのを誘導したらいいんですか。」
英治は少し関心したように未佳の顔を見た。
「わかってるね。」
「それぐらいわかりますよ。」
未佳は少し胸を張った。
シートベルトが未佳の胸を強調するように食い込む。
英治は無心で顔を背けた。
「頼もしいね。まあ今日は生コン打設だけど。」
「ナマコンダセツ・・・。」
未佳の頭の中はナマコでいっぱいになっていた。
ナマコとは絶対に関係ない。関係ないんだ、と思えば思うほどナマコが頭から離れない。
そしてとうとう口にしてしまった。
「ごめんなさい、わたしナマコ苦手なんです。」
「え、でも昨日水族館で触ろうとしたよね。」
「触るのは平気だけど食べられません。あのコリコリ感が好きになれなくて。」
ナマコ美味しいのにな、と思いながら英治は気が付いた。
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