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「お疲れ様です。明日の配置はどこですか。」
受話器から柔らかく可愛らしい声が響いてくる。
「今日と同じ現場だけど、三十分早く来てほしいって。大丈夫かな。」
低く落ち着いた穏やかな声で問いかける。
「はい、大丈夫です。」
「それじゃあよろしくね。」
「はい、ありがとうございました。」
ここは、とある警備会社の事務所である。
警備と言っても工事現場や道路工事の交通警備と駐車場の管理がメインの中小企業である。
総勢五十名の警備員が登録されているのだが、そのほとんどがアルバイトだったりする。
英治はここで警務をしている。
警務というのは警備員のリーダーのようなものだ。
お客さんからオーダーを受け、警備員の配置を決める。
新人教育や営業までもこなす、社内の何でも屋的存在の二十六歳である。
大学を出たものの、良い就職先に恵まれず、あくまでバイトとして警備員をやっていた。
だがすぐに主任の目にとまり、正社員にならないかと誘われた。
職に困っていた英治は、必要とされることが嬉しくて、二つ返事で了承した。
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