1人が本棚に入れています
本棚に追加
そうして次の日から未佳の研修が始まった。
と言っても一日だけで、二日目からは即現場配置だった。
英治は他の会社で定年を迎えた年配者と未佳を組ませて、簡単な交通警備に配置した。
それから一週間、交通警備に配置した後で、比較的難しくない工事現場に配置した。
未佳は特に評判が良いわけでもなく、かといってクレームがくることもなかった。
「クレームがこないってのは良い証拠だ。」
「でも良い人は指名がかかりますよね。もっとも俺も指名かかったことないんですけど。」
「まあそうだな、お前は指名多かったぞ。楽させるわけにはいかんので、断っていたがな。」
少しは楽をさせてくれ、そう思いながらも、自分にも指名があったことの方が嬉しい英治であった。
「未佳ちゃんかわいいっすね。今度おなじ配置にしてくださいよ。」
茶髪をツンツンに立てた大学生の雅人は言った。
警備中は帽子やヘルメットをかぶるため、仕事帰りはペッタンコである。
現在2年生なのだが、留年が確定している為、中退する予定である。
英治には人生を甘く見ていると感じられ、好感は持てずにいた。
しかしながら主任の評価は高かった。
可もなく不可もないからだ。
「スーパーマンなんかいらない。」それが主任の口癖だ。
優秀な人間は一握りであり、優秀であればあるほど後任がダメに見えてくるものらしい。
確かに英治には身に覚えがある。
以前に小さな交差点のど真ん中にあるマンホールの工事があった。
英治は交差点の真ん中で、見事に交通誘導を行った。
路線バスの経路でもあった為、バスの誘導も行った。
翌日は別の人が配置されたが、車が通行できないということで工事は中止された。
配置したのは年配者だが、しっかり者で評判の佐々木さんだった。
佐々木さんは愚痴りながら事務所に戻ってきた。
「昨日の人はバスも通していたぞって言われたけど、通るわけがない。あんなでたらめ言われるとは思わなかった。もう二度とあの現場には配置しないでくれ。」
英治はとても自分がやったとは言えず、作り笑いをするだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!