車で行きますか。

1/3
前へ
/41ページ
次へ

車で行きますか。

 道路際に少女が一人で立っていた。  グレーの綿パンに紺のトレーナー、デニムのジャンパーと女子力を抑えた服装だ。  未佳である。  英治は未佳のすぐ近くで愛車(といっても車に興味はなく、あまり大事にはしていない)の軽自動車を停めた。 「待たせてゴメンね。」 「いいえ、そんなに待ってないですよ。約束の時間前ですし。」  英治は何だかデートっぽい会話だなと考えながら、いつもより慎重にアクセルを踏むことにした。  改めて未佳を見ると、デートっぽくない服装だな、と思ったけれど、自分も着古したシャツとデニムであり、まあお互い気兼ねない格好で良かったと感じた。 「軽自動車なんですね。ずっと乗っているんですか。」  特に意識した言葉ではないのだが、英治には違う意味に聞こえていた。 「まあ、よく軽自動車が似合わないと言われるよ。まだ乗って三年だけど、元々が中古だったからね。車にはお金を掛けない主義なんだ。」 「そういうつもりじゃなかったんですけど・・・。」  英治もそういうつもりではなかった。  とくに感情もなく、挨拶程度のつもりだった。 「俺も嫌味でいったつもりはないよ。」  少しうつむいた未佳を見て、英治はクスクスと笑った。  その様子に未佳は少しだけムッとした。  そんな未佳に対し英治は益々笑顔になった。  正直なところ、英治は未佳の顔をあまり覚えていなかった。  こんな感じだろうという印象だけだった。  カラーコンタクトをしているけれど化粧っ気はなく、むしろスッピンのようだ。  ピアスもシンプルなデザインで、別に目立つものではない。  少しふっくらしているが、かえって若さが引き立ち、健康的に見える。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加