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車で行きますか。
道路際に少女が一人で立っていた。
グレーの綿パンに紺のトレーナー、デニムのジャンパーと女子力を抑えた服装だ。
未佳である。
英治は未佳のすぐ近くで愛車(といっても車に興味はなく、あまり大事にはしていない)の軽自動車を停めた。
「待たせてゴメンね。」
「いいえ、そんなに待ってないですよ。約束の時間前ですし。」
英治は何だかデートっぽい会話だなと考えながら、いつもより慎重にアクセルを踏むことにした。
改めて未佳を見ると、デートっぽくない服装だな、と思ったけれど、自分も着古したシャツとデニムであり、まあお互い気兼ねない格好で良かったと感じた。
「軽自動車なんですね。ずっと乗っているんですか。」
特に意識した言葉ではないのだが、英治には違う意味に聞こえていた。
「まあ、よく軽自動車が似合わないと言われるよ。まだ乗って三年だけど、元々が中古だったからね。車にはお金を掛けない主義なんだ。」
「そういうつもりじゃなかったんですけど・・・。」
英治もそういうつもりではなかった。
とくに感情もなく、挨拶程度のつもりだった。
「俺も嫌味でいったつもりはないよ。」
少しうつむいた未佳を見て、英治はクスクスと笑った。
その様子に未佳は少しだけムッとした。
そんな未佳に対し英治は益々笑顔になった。
正直なところ、英治は未佳の顔をあまり覚えていなかった。
こんな感じだろうという印象だけだった。
カラーコンタクトをしているけれど化粧っ気はなく、むしろスッピンのようだ。
ピアスもシンプルなデザインで、別に目立つものではない。
少しふっくらしているが、かえって若さが引き立ち、健康的に見える。
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