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ふと、未佳の口元がゆるんだ。
見ると並んだ車の窓から柴犬が顔を出していた。
「イヌ、好きなんだ。」
未佳は照れたように笑う。
「好きですよ。でもお母さんが動物嫌いで、飼えないんですよ。」
ふうん、とそっけなく答える英治。
「だから頑張ってお金貯めて、一人暮らし始めて、プードルを飼うのが目標なんです。」
「へえ、なんか一人暮らしでイヌ飼ってると、結婚できない女ってイメージあるけどね。」
未佳は目を大きく見開いた。細めの眉が吊り上がっている。
犬を飼うだけでそこまで言われるか、そんな考えがハッキリと感じ取れる表情だった。
「で、プードルってなに。」
「プードルは犬ですよ。そんなことも知らないんですか。」
「いやそうじゃなくて、なにプードルを飼うつもり。トイ、ミニチュア、スタンダード。」
未佳は真顔に戻っていた。
プードルにも種類があるんだ。
「えっと、ふつうのプードルです。だからスタンダードかな。」
英治は思わず噴き出した。
「普通のプードルって小型犬の感じでしょ。スタンダードは大きいよ。小っちゃい人が入ってるんじゃね、って思うくらい。」
未佳は恥ずかしそうにうつむいた。
英治は雅人の言っていたことを理解した。
確かに可愛い。
それは顔立ちではなく、コロコロと変わる表情や感情、動きのことだろう。
それらをひっくるめて可愛いと感じるのだ。
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