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「可愛いってよく言われるだろう。」
「え、まあ女の子から言われたことはありますけど。」
未佳は益々うつむいてしまった。
何の気なしに言ってしまった英治であるが、しばらくすると恥ずかしさが込み上げてきた。
軽自動車の座席は広いものではない。
肘と肘が触れそうな距離感に、さっきまで感じられなかった近さを感じる。
近すぎる。
今は少しだけ離れたい。
そう思えば思うほどに恥ずかしくなってくる。
「なんかコロコロしてて子豚みたいに可愛いよね。」
そう、これは動物的な可愛さだ。
そう思わなければ、この恥ずかしさは拭えなかった。
そしてこの作戦は功を奏することになる。
ただ、動物のたとえが悪かったのだが。
「コブタってどういうことですか。」
「いやどうということはないけど。」
「太ってるって言いたいんですか。」
「いや全然太ってなんかないからね。あくまでイメージというか。」
「イメージでも同じゃないですか。」
普段の英治なら不毛な言い争いは避けただろう。
だが今、この時が楽しいと感じていた。
「ごめん、ごめん。おわびにお昼おごるから。」
「はあ、最初からおごる気がなかったんですか。自分から誘っておいて当然のことでしょう。それとは別にお詫びを考えてくださいね。」
少しきつめの未佳の言葉も、不思議と嫌ではない英治だった。
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