3話 一晩過ごすために

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理解した私は道具屋から出た。 道具屋の外に出た私のもとに、眼鏡をかけておどおどとした、気の弱そうな男性が走り寄ってきた。 「いい情報があるぞ。 この村の中に、5時間働けば1000ゼンもらえる所があったんだ」 「へえ。 どこにあるの?」 「宿屋の向かいの民家だ。 近くの畑で作業すれば、1000ゼンくれるらしいぞ」 嫌いだ。 嫌いだなぁ、この感じ。 私にそのことを伝えにくる必要は、まったくない。 勝手に1人で働いて、1000ゼンを入手すればいいのだ。 なんで私に言うの? 私に伝えた理由その①、不安を拭い去りたかった。 自らの選択に不安がある人間がとる行動は1つだ。 自らじゃない者にその選択を肯定してもらう。 私にもそいつが提案する行為を行わせることで、不安を消し去りたかったのだろう。 私に伝えた理由その②、いい人アピール。 私に有益な情報を伝えたという事実をアピールしたかった。 そうすることで、私を味方にできると考えたのだろう。 嫌いだ。 嫌いだなぁ。 本当に嫌いだなぁ。 こいつも。 こいつの純粋な親切からかもしれない行動を、こうもひねくれてしか見れなくなった私自身も。
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